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一九四五年(昭和二十年)から一九五一年(昭和二十六年)までの間に、卸売物価は何と三○○倍以上となり、こうしたハイパー・インフレーションが敗戦直後のわが国経済の混乱に拍車をかけたのです。 インフレーションを収束させたのは、一九四九年(昭和二十四年)に来日した米国デトロイト銀行のD頭取でした。
D頭取は占領軍の顧問としてD・ラインと呼ばれるデフレーション政策を推進しましたが、その一環として復興金融金庫を含めた広義の財政赤字を日本銀行が補てんすることを禁じたのでした。 そうした荒療治によって初めてハイパー・インフレーションが収束に向かったのです。
日本銀行にとってもう一つの忘れることのできない失敗は、一九七三〜七四年(昭和四十八〜四十九年)における大インフレーションの体験です。 一九七一年(昭和四十六年)八月にアメリカによる金とドルの交換停止が一方的に行われ、第二次世界大戦後長らく続いてきた固定為替相場体制であるIMF・ブレトンウッズ体制は崩壊しました。
円の対ドル相場は、固定相場制度の下での一円=三六○分の一ドル(一ドル=三六○円)から急速に上昇しましたが、わが国ではそうした円高化に伴う深刻な不況の到来を恐れるあまり、行き過ぎた金融緩和政策が採用され、再び過大な通貨供給を行ってしまったのです。 例えば、後で詳しく説明する通貨供給量の代表的な指標である肌(エム・ツーと呼びます)は、一九七一〜七三年度(昭和四十六〜四十八年度)にかけて前年度比で二二%、二七%、二○%と三年連続の急増を示しました。
折悪しくも一九七三年秋には次石油危機(アラブ諸国によって原油供給量が削減され、原油価格が急騰しました)が勃発したため、卸売物価は一九七三年度には二二%、七四年度には二三%と急上昇しました。 人々の間にインフレ心理がまん延し、買い急ぎ売り惜しみの動きが広まって、スーパーマーケットなどで洗剤やトイレットペーパーを買い求める主婦達の長い行列ができるなど、わが国の経済は一種の混乱状態に陥ってしまったのです。

通貨の量とインフレーションとの間には密接な関係があります。 通貨がすべて取引手段として用いられる世界を考えてみれば容易にわかります。
そこでは商品やサービスの取引数量に物価水準をかけただけの取引金額が一定の通貨量によって支えられていることになりますから、仮にあるとき突然に通貨量が二倍に増加しますと、取引数量に変化がないならば、物価は二倍になります(通貨数量説と呼ばれる考え方です)。 もちろん現実の経済は、それほど単純ではないのですが、通貨量の大幅な増加が一挙に生じるときには、それに比例したインフレーションの生ずる可能性は高いといえます。
次に金融政策の追求すべき目標と、して掲げられることのある経済成長と雇用の増加について考えてみましょう。 事実、日本銀行が直面した過去の深刻なインフレーションを振り返ってみると、それらが必ず通貨量の膨脹を伴うものであったことに気づきます。
通貨量の膨脹を招いてしまった原因は、政府不換紙幣の乱発であったり、軍事費を中心とした放漫な財政政策のツケであったり、また日本銀行自身による景気判断の誤りであったりと、その時々において異なるのですが、ともかくいったん通貨量の膨脹が生じてしまいますと、必ずインフレーションをもたらし、経済の混乱へとつながっていくのです。 インフレーションとの闘いにおいては、何よりも通貨量の安定的な供給が大切だということを私達は歴史から学ぶべきなのです。
総生産(GDPと略称されます)が年々増加していくことを意味します。 そうしたGDPの成長につれて、国民が一年間に得る所得がふえ、消費と貯蓄とがともに増加して国民の生活がそれだけ豊かになっていくのです。
またGDPが成長していくときには、商品やサービスの生産のために必要ときれる工場、店舗、機械設備などへの投資が行われ、そうした工場、店舗などで働く人々(つまり被一雇用者数)の増加がもたらされます。 最も望ましい場合には、働きたくとも働く機会の与えられない人(つまり失業者)の数が減少し、働きたい人がすべて職についている完全雇用の状態が達成されることになるのです。
では金融政策はどのようにして経済成長と一雇用の増加を達成することができるのでしょうか。 先ほど説明したように日本銀行が通貨の量をふやしますと、それにつれて物価が上昇し、名目ベースでのGDPは当然増加します。
けれどもこの場合、生産される商品やサービスの実際の量がふえていないのならば、そうした名目額の変化によって国民の生活が豊かになるわけではありません。 物価水準の上昇を割り引いた(これをデフレートするといいます)実質ベースでのGDPが増加し、それにつれて実質ベースでの消費や貯蓄がふえるとき、はじめて国民の生活水準が向上したといえるのです(例えば、わが国の名目GDPは、一九八○年度の二四五兆円から一九九三年度には四七○兆円へと一・九倍に増加していますが、この間の物価上昇をデフレートした実質GDPでは、一・六倍の増加にとどまっています)。

なお、実質GDPは国民生活の豊かさの指標としては必ずしも適当ではなく、例えば、住宅の広さ、労働時間の短さ、公園など居住環境の快適さなどを考慮に入れるべきだという立場もあることを注意しておきます。 供給量をふやすと金利(ここでは債券利回りを考えています)が低下します。
人々の通貨(ここでは無利子の現金通貨と固定金利の預金通貨の合計を考えています)に対する需要には、取引決済のために必要な通貨を保有すること(これを取引動機と呼びます)、債券などの金融投資に将来回すべく、とりあえず通貨で保有すること(これを投機的動機と呼びます)の二つの側面がありますが(K自身は、このほかに予備的動機を挙げています)、これらの需要量はいずれも金利と密接な関係があり、DD曲線で金利が上昇すると通貨に対する需要量は減少します。 なぜなら金利が上昇すると、取引動機のために保有する通貨を節約したり、価格の下落した債券を将来の値上がり期待で買うために投機的動機による保有通貨が取り崩されたりするからです。
したがって、中央銀行が通貨供給量をふやすと、通貨量の需要と供給の間でのバランス(これを需給均衡と呼びます)が再び回復されるためには、増加した供給量に見合うところまで需要を増加させるように金利が低下することが必要になります(例えば、図2で通貨供給量Sが○から○に増加しますと、金利は○から○に低下します)次にそうした金利の低下は企業の設備投資(工場増設や機械購入)を活発化させます。 企業は、ある設備投資をした場合に得られる将来の収益の流れとそうした設備投資のために必要な資金を借り入れるコストを比較して、新しい設備投資を行うべきか否かの意思決定をするのですが、金利が低下すれば、借入コストが低下し、それによって採算のとれる設備投資案件が増加するからです。
こうして企業の設備投資がふえると、それに見合って企業の生産・雇用と家庭の所得がふえ、つれて家庭の消費がふえて再び企業の生産・雇用がふえるという循環的なプロセスが働くというのがK派経済学の考え方だったのです。

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